これまでに調べていないミドリイシサンゴ4種を追加して交配実験を行ない、種間で交雑する組み合わせを探索した。その結果、種間交雑する組み合わせを新たに1組み合わせ見いだし、総計10組み合わせの種間交雑を確認した。交配の結果得られた幼生は遺伝子診断による親子鑑定によって雑種であることを確認した。交配に用いた精子からゲノムDNAを抽出し、PCRによってミニコラゲン遺伝子の一部分を増幅した。その塩基配列を決定し、分子系統解析を行なった。その結果、種間で交雑する種の間で遺伝子移入が起きていることが示唆された。これは、Veron95によって提唱された'Syngameon'という種複合体の概念によく合致する。またどんなに形態が類似していても交雑しなかった種間では遺伝的距離が有意に遠く、形態の類似性と遺伝的近縁性との間に相関は見られなかった。このことは、ヒストン遺伝子の介在領域の塩基配列についても同様の結果を得た。以上のことから、形態が大きく異なる種間でも妊性のある雑種が生じ、元の種と戻し交配をしていると考えられる。雑種化によって新たな形態が創出され、さらには新たな種として分化していく可能性が見いだされた。また遺伝的に離れたグループで、類似した形態が独立に生じたことも示唆された。産卵時間が異なる一群の種においては、遺伝的距離が他の種間関係に比べて非常に遠くなったことから、種間交雑と遺伝子移入が起こることには、一斉産卵という生殖様式が大きな要因であることも示唆された。
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