まずミドリイシ属サンゴのうち1種について、ミトコンドリアゲノムの遺伝子配置を決定した。そのうちチトクロムb遺伝子とATPアーゼ6遺伝子を選びその塩基配列を、ミドリイシ属各種サンゴについて決定して分子系統解析を行った。ところがミトコンドリア遺伝子における塩基置換速度が核遺伝子より数倍遅く、種間比較には適当でないことが判明した。そこで計画を変更して属間比較を行った。また遺伝的距離と既知の化石記録との比較から、主要な属の分岐年代を推定した。Astreopora属の分岐が中生代終盤と推定され、化石とよく一致した。主要な属のAcropora亜属とMontipora属の多様化はここ500万年以内と比較的新しいと推定された。5000万年前に分岐して以降化石を産出していることから考えると、気侯変動に伴って絶滅を繰り返して生き残った小集団から最近になって放散を遂げたという進化の歴史が考えられた。またAnacropora属はMontipora属内に含まれ、いっぽうIsopora亜属はAcropora亜属から1500万年前に分岐したことが示唆された。形態と生殖様式の違いと合わせて、Isopora亜属を独立の属とすべきと考えられる。またミドリイシ科の中では、一斉産卵が祖先型の生殖様式であることが推定された。 また8-9月に産卵するミドリイシの遺伝的系統関係は6月の一斉産卵に参加する種と極めて近縁であり、産卵時間が早い種の遺伝的系統関係が有意に遠いことと対照的であった。いずれにせよ産卵タイミングをずらすような遺伝的変異が集団中に広まることで同所的種分化が起こる可能性を指摘することができた。
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