体系的な交配実験と遺伝系統解析によって、一成産卵に参加するミドリイシ属サンゴは4つのグループに分かれることが判明した。各グループは、交雑による遺伝学移入によって連結した「種複合体」であり、これは網目状進化の歴史の現時点における断面として捉えられる。このような交雑による遺伝子移入が、サンゴの多様性を生み出す基盤となっている可能性も指摘できる。一斉産卵より早い時間に産卵する種はそれらで同様の種複合体を形成すると同時に、一斉産卵種群からは遺伝的に有意に遠く、同調産卵が雑種化の基盤になると同時にわずかな産卵タイミングを違いが生殖隔離となることを示した。このことから、産卵タイミングをずらすような遺伝的変異が集団中に広まることで同所的種分化が起こる可能性を指摘することができた。 またミトコンドリア遺伝子に基づくミドリイシ科サンゴ属間の系統関係の推定と遺伝的距離からの分岐年代の推定を行った。主要な3属(Astreopora属、Acropora属、Montipora属)の分岐年代は化石記録とよく一致した。いっぽう各属の多様化はごく最近のことであると推定された。このことから、気候変動に伴って絶滅を繰り返して生き残った小集団から最近になって放散を遂げたという進化の歴史を遺伝的な側面から裏付けたと言える。また一斉産卵が祖先型の生殖様式であると推定された。 以上のように、生殖および遺伝の両側面から、ミドリイシ科サンゴ特にミドリイシ属サンゴの進化の歴史を描き出すことができた。
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