本研究目的は、現代の二つの最もアクチュアルな問題である、環境問題と情報問題の深い内的連関を把握できるような理念、パラダイムを探究し、新たな学問分野〈共生学〉を切り開く端緒をつかむことであった。平成9年度は、それぞれの問題の原理的究明と共に問題の所在を多面的に概観することを一層はかり、内的連関の手がかりをつかむことに集中した。 情報問題に関しては、種々の関連研究者との議論や資料交換を重ね、インターネットやバーチャル・リアリティに見られる高度情報化の進展の人類史的な意味を考察し、環境問題の関わりを究明した。この成果の一端は、平成9年度日本哲学会での発表や掲載論文「『情報化社会』における人間存在」に示されている。 他方、環境問題に関しては、理論的究明として、今西錦司の自然学における「環境」概念と「主体」概念を中心に彼の自然観を究明し、脱近代の環境哲学の基礎の構築に役立てようと考察を深めた。これに関しては、中国で開催される国際シンポジウムに発表原稿「日本的自然観と現代環境思考」を送付・受理され、本年3月下旬に発表する予定である。また、環境問題の理解の深化に関しては、具体的な社会的アプローチも必要と考え、産業廃棄物問題で最も問題になった豊島の事例を考察するために現地調査を行った。 また、これまで〈共生〉を具体的考える場として、学校の場を中心に考えてきたが、その事例の拡大として、医療問題にアプローチし、医療関係者と患者のコミュニケーション関係について考察を開始した。その成果の一端は、医療関係の雑誌『月刊保団連』の巻頭論文「医者-患者の人格的な水平的関係への転換を」として示されている。
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