本研究目的は、環境問題と情報問題という現代の二つの最もアクチュアルな問題の深い内的連関を把握できるような理念、パラダイムを探究し、新たな学問分野〈共生学〉を切り開く端緒をつかむことであった。平成10年度は、平成9年度に続いてそれぞれの問題の原理的究明と共に問題の所在を多面的に概観することを一層はかり、内的連関の手がかりをつかむことに集中した。 情報・コミュニケーション問題に関しては、種々の関連研究者との議論や資料交換を重ね、特に本年度は、情報化と子どもの環境の連関や情報化が世代間コミュニケーションとどう関わるかを、人類史的な視点から考察し、環境や共生の問題との関わりを究明した。この成果は一端は、論文「世代間コミュニケーション・民主化・エコロジー」に示されている。 他方、環境問題に関しては、引き続き今西錦司の自然観を究明し、昨年度の中国で開催された国際シンポジウムでの発表「日本的自然観と現代環境思想」に引き続いて考察を深め、論文「今西錦司の自然観と認識方法」を執筆した。また、日本的自然観の究明の一環として、安藤昌益の研究を行うと共に、さらに白神山地にて環境保全の観点から調査研究を行った。さらに、環境問題と情報問題の問題性の根源は、近代の人間・自然観にあると考え、環境、生命、情報の関連を考察したが、これは、論文「人間と自然の二元論を巡る生物学と哲学の接点」にその成果の一端が示されている。 これまで環境問題と情報問題を人間と自然、人間と人間の〈共生〉を軸にその関連を考えて来たが、さらに〈生命〉の視点をそれに加えて、全体として人間観の再構築へと問題意識が深まりつつある。
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