本年度は、近代宗教学の成立に焦点をあて、その確立過程と伸展の具合を明らかにした。具体的には東京帝国大学ならびに日本でも初の宗教学講座の設立者、姉崎正治をとりあげ、彼の関連史料の収集とその分析に主眼をおいた。その結果、宗教学は、各教団への帰属にあきたらない市民教養層の成立を背景とし、しかも旧来の非合理的な啓示教儀に疑問をもった人々の信仰的渇望にこたえるものとして登場したと結論づけた。すなわち、国民主義国家と科学的合理性に対応できる新たな信仰の作り出しに宗教学は介在したのである。その宗教学が関与することで市民権を得るに至った概念が宗教という教団を超えた信仰の姿である。東京大学を皮切りに、帝国大学に設置された宗教学の講座はこうした宗教の近代的再生において強いリーダーシップをとり、各教団の関係者たちもそこに学ぶことになった。勿論、日本における宗教学の在り方はこのような観点に加え、天皇制という国体の特徴が政治的に加味されることで、この国特有の性質を帯びることになるのである。
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