「本年度の研究実施計画」のうち、文献の調査・収集( 「実施計画の(1)、(2))に関しては、インターネット検索なども用いて一定の成果を得たが、来年度以降も継続する必要がある。資料調査のための国内旅行( 「同」(3))は、諸般の都合で年度末に実施せざるをえず、アルバイトを用いた整理作業( 「同」(4))も3月に行った。 資料収集・分析の成果を踏まえての、論文執筆あるいは研究発表( 「研究実施計画」の(5))としては、本報告書「11」欄に記した3篇の論文を執筆した。そのうち「甘美な接触」、「 「読むこと」から「言うこと」へ」の2篇は、従来私が遂行している近世スペイン神秘主義研究の一環であって、「宗教および宗教学における“神秘主義"概念の系譜学的再検討とその学問的有効性の再評価」(本研究の「研究の目的」)を直接に主題にしたものではないが、“神秘主義"概念の成立史上に極めて重要な位置を占める近世カトリック圏の神秘思想研究として、本研究にも深く関連している。すなわち、前者は、しばしば“神秘主義"の中核に据えられる“神秘体験"なるものの理解を、16世紀の神秘家十字架のヨハネに即して再編成しようとするものであり、後者は同じく十字架のヨハネやアビラのテレジアらに即して、“神秘体験"を中心とする神秘主義理解から、聖典の“神秘的意味"解釈を中心に置く神秘主義理解への転換の可能性を探るものでもある。また、《On the Universality of Mystical Experience》(未完だが、12月のシンポジウムで発表)では、この“神秘体験"主義的神秘主義理解が17世紀以降の産物であるとの視点から、古代以来のキリスト教神秘主義の流れを通覧し、オウム真理教などにに顕著に見られた現代の“神秘体験"主義を批判しつつ、新しい神秘主義概念の形成可能性を模索した。 来年度以降は、こうした新しい神秘主義概念を軸にした神秘主義思想史をさらに肉づけし、近・現代日本の神秘主義的宗教思潮の研究にも着手したい。
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