研究概要 |
本研究は,人間のナビゲーション(進行方向の決定・遂行)とそれにまつわる姿勢制御に対する大視野・高解像度刺激提示の効果を測定することである.特に初年度である本年度は,頭部搭載型のディスプレイ(HMD)及び全視野包囲型のディスプレイ(東京大学インテリジェント・モデリング・ラボラトリ-のCabin)を用いて,その効果を測定するための実験パラダイムの確立と予備的な実験を行った. まず,ナビゲーション及び姿勢制御に影響を与えるであろう「視覚情報からの自己運動知覚」を,(1)口頭報告及び(2)重心動揺から測定することが,最初の段階と考えられた.予備的な実験の結果,高解像度の運動刺激は,視覚処理系において非常に解像度が低いとされる周辺視野までの広い範囲に提示されたときに始めて,強い自己運動知覚を生じさせることができた.また,重心動揺の強度は,刺激の運動強度と相関していた.しかし,興味深いことに,口頭報告される自己運動の方向は,刺激強度によって逆転する地点があることがわかった.この現象については,さらに体系的に視野の広さや運動の種類を操作した実験をする必要がある. さらに,このような自己運動知覚を生じさせる運動刺激を提示しつつ観察者に自発的な歩行を課したところ,不可避的にその進行方向にゆがみが生じるのが観察された.このことは,視野内の運動およびそれによって誘発される自己運動知覚が,人間の歩行時にリアルタイムに利用されていることを示している.しかし,その歩行時にナビゲーションに利用されているものが,視覚刺激の運動そのものからの進行方向情報なのか,それによって生じた自己運動知覚あるいは姿勢制御の結果なのかを特定することは,次年度の課題である.
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