質問紙調査:本研究の予備的研究の一つめとして質問紙調査(岩立、樟本、福田、印刷中)を行った。結果は、経験年数が3年目頃までは、多くの発見と気づきを経験しながらも、集団に馴染みにくい幼児や自分自身の職場の人間関係に翻弄されて悩む状態が記述された。経験年数5、6年目の保育者でも、職場の人間関係に悩んでいる場合は、悩みの内容が初任者と変わらないものであった。この結果から、保育者のキャリア形成の主要因として、職場の人間関係のあり方が指摘された。 フリーディスカッション内容の調査:予備的研究の2つ目としては、経験年数1年目の幼稚園教諭に集まってもらい、フリーディスカッションにより、「就任当初と現在の自分を比較して、自分自身がどう変わったか」、「子ども、保護者、職場の同僚、友人などいろいろな人間関係が自分をどのように成長させたか」というテーマで話し合ってもらい、その内容を分析した。「自分自身の1年間の変化」については、(1)仕事の手順・段取りが理解できるようになった、(2)手の抜き加減のコツをつかんだなどの内容の他、(3)1年間で学んだことを新しいクラスでの保育に活かせないという悩みがあげられた。「自分を成長させる人間関係」については、特に保護者との関係で、(1)園での子どものけがについて賠償金を求められたり、クラス替えをしないで欲しい・月1回は遠足をして欲しいなどと予想外の要求をされたこと、担任本人に批判を告げずに上司に言いつけられたことなど、信頼関係形成を阻害するような内容が多かった。他方、(2)「新任だから」と保護者が見守ってくれることが嬉しかったなどの内容があげられた。このことから、新任保育者のキャリア形成を促す要因として、保育者の今後の発達可能性に対する信頼をベースにした周囲の人々の受容的な態度が重要であることが示唆された。
|