研究概要 |
手話学習における手話単語の記憶過程を解明するため,まず手話の符号化過程に焦点をあて,以下のような実験研究を行った。 実験の目的は,手話単語の記憶における被験者実演課題(subject-performed tasks)の効果を,自己イメージ課題(self-imagery tasks)との比較において検討し,さらに音声言語における単語の具象性(concreteness)の高低によって,手話単語の記憶成績が異なるか否かを明らかにすることであった。実験では,手話の学習経験がない大学生を被験者とし,手話表現の動作を実際に行う被験者実演課題か,あるいは自分が動作を行うところをイメージするだけの自己イメージ課題かのいずれかの条件下で,ビデオ画面上に視覚提示される手話単語を,日本語単語(意味)との対連合によって符号化させた。手話単語には,日本語単語に基づく具象性の高・低が設けられた。再生テストでは,日本語単語を視覚提示し,対応する手話を表現させた。その結果,被験者実演課題の効果は認められず,日本語単語の具象性の効果だけがみられた。学習者が手話単語を符号化するときは,実際に動作を行うことが重要なのではなく,記憶過程において視覚的・運動イメージを活性化することが重要であるといえよう。さらに,対応する日本語単語の具象性が手話単語の再生成績に影響を及ぼすことから,視覚的な情報処理を要求する,映像性の高い言語である手話においても,イメージ性と高い相関のある,音声言語としての単語の具象性が,手話単語の符号化・学習容易性を規定する要因の1つであることが示唆された。 なお本実験の結果については,日本心理学会第62回大会(平成10年10月:東京学芸大学)にて口頭発表する予定である。
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