本年度は、母子観察の縦断的調査研究(生後6ヶ月時と12ヶ月時)と、生後12〜36ヶ月の子供を持つ母親に対する横断的質問紙調査研究のデータ収集に時間を費やし、次の3点についての分析、検討を行った。 1.親から受けて養育に対して、子供が主観的にどのように体験し、これを後にどのように思い出すかという視点から育児文化に関して検討したところ、母子が「共に眺める」体験、つまり「共有視」が重要なポイントであり、この共有視をする対象に「はかない対象」が選ばれることが圧倒に多いということが分かった。日本人の心に刻まれる親子関係が基本形は、共有された対象が消えて行くところを共に眺めるという二人の関係で、横並びの姿勢であると言え、これが日本の育児文化の特徴と考えられる。 2.子供への養育態度に反映すると考えられる、母親が我が子を育てる中で感じる「育てやすさ」「わかりやすさ」と、母親がとらえる幼児の行動、気質といった行動特性との関連を検討した。その結果、生後3ヶ月時、子供が泣く理由のわかりやすさを基準にすると、「わかりやすい」子供像とは欲しい物や眠気が母親にとってわかりやすい子供であり、わかりやすい子はその後の行動、気質をみると、のんきで穏やかな子供像を示すようであった。 3.情緒的交流の様相から母親の養育態度をとらえるために、情緒的交流を取り出す尺度を作成し、母親と子供との自由相互作用場面に関してこの尺度を母親、観察者の双方に評定を求め、両者間を比較した。その結果、母親は子供との間でポジティブな情緒的交流が繰り広げられていると感じる傾向が強く、母子の相互作用を傍らから見ている観察者とではズレが生じる場合があった。母親、観察者間の母子相互作用に対する感じ方のズレは、母子双方の「楽しい感じ」、ポジティブな情緒的交流の欠如と関連していることが示唆された。
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