子どもに自己の感情経験について語ってもらうことを通して、子ども自身の感情生活に肉薄することを目指した。具体的には、4歳児32名、5歳児30名、6歳児36名を対象として、1対1の面接をし、自己の感情経験についての質問及び架空の人物の感情を惹起する出来事についての質問をした。取り上げた感情は、うれしい・悲しい・怒った・やな気持ちという4種類である。各被験者の回答は、感情の先行事象としてもっともらしいものを答えた場合を、正答とし、そうではない場合を無答として、コード化した。その結果。どの年齢でも、自己についてよりも架空の人物についての方がその感情の先行事象を語りやすいタイプの人が最も多かった(4歳児13/32名;5歳児17/30名;6歳児23/36名)。それとは逆の、自己についての方が架空の人物についてよりもその感情の先行事象を語りやすいタイプの人は、極めて少なかった。特に、悲しい・怒った・やな気持ちといった否定的な感情については、架空の人物がそういう気持ちになる事象は想定できるのに、自分自身についてはそういう気持ちになったことがないと言ったり、わからないと言ったりすることが増えた。そこから、幼児は、否定的な感情について知識は持っているのに、自分自身の否定的な感情経験については語らないことがうかがえる。これは、そもそも幼児は自分には否定的な感情経験自体がほとんどないと捉えていることの反映なのか、あるいは、自分の否定的な感情経験について認識はしていてもあえてそれを語ろうとしないということなのか、2つの可能性が考えられる。
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