子どもに自己の感情経験について語ってもらうことを通して、子ども自身が自己の感情をどのように捉えているのかについて肉薄することを目指してきた。特に今年度は、一昨年度から追跡してきた子ども達の3年間にわたるデータが蓄積でき、横断的な検討に加えて縦断的な検討をすることができた。具体的には昨年度に引き続き、4歳児34名、5歳児29名、6歳児36名を対象として、自己の感情経験についての質問及び架空の人物の感情を惹起する出来事についての質問をした。取り上げた感情は、うれしい・悲しい・怒った気持ちという3種類である。 その結果、昨年度に見出された傾向が今年度の面接においても確認された。即ち、自己については架空の人物についてよりも、その感情の先行事象は語られにくいことが多く、特に自己の否定的な感情については語られにくかった。これは、そもそも幼児は自分には否定的な感情経験自体がほとんどないと捉えていることの反映なのか、あるいは、自分の否定的な感情経験について認識はしていてもあえてそれを語ろうとしないということなのか、2つの可能性が考えられる。 そのことを検討するために、4歳時から6歳時にわたる縦断データ29人分を分析したところ、自己の否定的な感情の先行事象については、年少時には語らなかったが年長になるにしたがって語るようになるという変化を示した人は18人(62%)と過半数を占めたものの、いったん語るようになったのに年長になると逆に語らなくなったという変化を示した人が、少なからずいた(9人;31%)。そこからは、自分の否定的な感情経験について認識する能力がないのではなく、認識はしていてもあえてそれを語らないというやり方を年長になるとするようになる人がいることが示唆される。
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