成果を上げることができたのは次の点である。 1. コンピュータ上で単純な反応を行うエージェントを作り出し、そのエージェントに状況的制約(コミュニケーションネットワーク)を課したときに経験的結果と符合する集団構造が創出されることを示した。(『社会心理学研究』論文) 2. エージェントが利他性に基づく基礎社会(Communal Societoes)を形成しているとき、その基礎社会の中では社会的ディレンマを解決しやすくなる可能性がある。この可能性が妥当することを、同様のエージェントを用いたコンピュータシミュレーションによって示した(Solving SociaI Dilemma収録の論文)。 3. 上記の研究、および文献研究に基づき、コンピュータシミュレーションが社会科学の中でいかなる可能性と問題点を持っているかを議論した(『オペレーションズ・リサーチ』および『日本ファジィ学会誌』論文)。 4. 食糧が降ってわく空間(Nutscape)の中で複数のエージェントがどのように社会秩序を作るかを分析した。食糧を多く確保したエージェントは子孫を残せ、確保できなかったエージェントは淘汰される。エージェントの戦略は、他のエージェントとの境界領域にある資源を、「与える(譲る)」、「奪う」、「折半する」の何れかの反応を導く。エージェントは争ったときの「強さ」のパラメータを持つ。概ね次の結果を得た。資源が豊富なときは相互に資源を折半する戦略が進化する。しかし資源が乏しくなると、「冨者に資源を譲り貧者からは奪う」という戦略が一般化し、略奪的な秩序が掲載される。 この略奪的秩序は貧富の差を拡大する方向に働いている。この結果は自発的な相互作用が協カ的な秩序を導くという従来の信念の反例になるといえる。現在公表の仕方を検討している。
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