本研究の眼目は、横浜・神奈川における人の移動と異文化接触が地域形成にいかなる影響をおよぼし、またその中で個々人の内面にいかなる変動が生じたかに関する実証研究を蓄積することにあった。そこでは定住者が流入者をどう見たかではなく、都市社会へ流入してきた人々のものの見方に焦点をあて、今後まだ多くの事実の蓄積を必要とするが故に、萌芽的研究であることが必要であった。このような目的から、横浜・神奈川の"移動民(homo movens)"への聞き取り調査、そしてかれら"移動民(homo movens)"の出身地調査をおこない、“移動民(homo movens)"のものの見方の中に、いかなる意味で都市や地域に関する新たな都市・地域社会論の萌芽を見いだせるのかを明らかにすることを試みた。幸いこれまでの研究成果をとりまとめた拙著『ホモ・モ-ベンス〜旅する社会学〜』あるいは共著『自治体の外国人疎策』などが刊行され、情報提供へのお礼として、これらの著作に配布をおこない、深い聞き取り調査が可能となった。調査研究の成果は著作に詳しいがひとつだけあげる-確固たる枠のなかにきっちりとおさまって生きるのではなく、制度的にはしばられつつも文化や国家の境界をはみ出し、すりぬけて、のりこえていくことを日常としている人たちに、枠の内側にとどまる人間のカテゴリーで質問しても、とどまる人間の整理をはみ出す言葉しか出てこないだろう。彼らにとっての"根"とは何かというと、くずれおれようとしたときにつかみ取るもの、そういうふうになってみて初めて、ふと来し方を振り返ったときとか、倒れそうになったときにグッと寄り掛かったりするときにのみ、現れるもので、実体として、例えば昔から純粋な日本社会があったとかとか言うのではなくて、歩き始めて、自己でも他者でもない、あるいは逆にブラジル人でも韓国人でも在日でもあるという混沌の中にあるものによって、いわば選びとられた、本人によってつなぎ止められたものである。
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