平成10年度は、前年度に行ったケース・スタディ及び関連の先行研究・理論から得た知見をふまえ、さらに補足的に行ったケース・スタディの結果とインターネット等から収集できる国内外の最新情報を総合的に取り込み、下記の側面から「市民大学」のNPOモデルの理論化に向けた基礎的な知見を抽出した。 1. NPOとしての経営特性:運営体制の制度化と柔軟化、構成員(とくにリーダー)の流動性と固定性、特定非営利活動法人として認可を受けるか否か、といった指標によってNPO型市民大学の特性を識別することができる。一言で表現すると、安定性と柔軟性によって経営特性を把握することができる。 2. 地域社会における役割:市民大学は、学習支援自体をめざす「教養指向」型と、学習をとおして地域振興テーマの達成をめざす「運動指向」型に大別することができる。それぞれのタイプは、固有のメカニズムで「市民社会を育てる装置」として機能している。さらに、類似・異種の市民大学間のネットワーキングは、地域への波及効果を高める可能性をもっている。 3. 運営メンバーにおける学習効果:市民大学は、これを運営するメンバーに問題解決学習の場を提供している。つまり、運営委員として事業企画、講師との交渉、受講者の募集などの活動を経験することは、市民としてのエンパワーメントにつながっている。 4. 行政との関係:補助金、施設の無料貸与、広報面での協カなど、行政からの支援を仰ぐことは、NPOとしての経営基盤を強める一方で、かえって自律性の保持を困難にする可能性をもっている。このような公式の関係の他、行政職員が個人として市民大学の運営メンバーになることは、invisibleなレベルで市民と行政のパートナーシップを促している。
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