本研究は、「ホリスティックな学校づくり」を試みている学校の実践に臨床的にかかわりながら、現代の教育と社会が直面している困難に対応していく手がかりを見つけることを目的としている。 「ホリスティックな」世界観は、機械論的で要素還元主義的な世界観がこれまでの教育と社会のあり方の根底をなしてきたことへの自己反省から生まれてきた。「ホリスティックな学校づくり」は、どちらかといえば〈近代〉のゆらぎや矛盾が表出するマージナルな部分から始まっている。「ホリスティックな学校づくり」はいまだ主流の動きとはなっていないが、社会が閉塞状況にある中で最も有意義な実践として次第に注日され始めている。 本年度は、主に大阪府立松原高等学校の実践をありのままに把握することを中心的な課題に据えた。一週間に及ぶ参与観察とインテンシブな聴き取り調査・資料収集によって、同校の実践の構造が次第に浮かび上がってきた。この学校は、地元校育成運動の結果設立されたという特別な歴史的文脈をもつ。実践はさまざまな葛藤を経て、「人権教育」へと展開していく。とりわけ、(1)「同担」と呼ばれる教員がコーディネーター的な役割を果たしながら地域のネットワーキングを拡大していったこと、(2)「生徒を大事にする」という思想が教員の自己反省によって矛盾なく実践されたことが「ホリスティックな学校づくり」の鍵を握ってきた。教員間の不一致などいくつかの課題を抱えているが、それは同校の問題というよりもシステム全般の問題である。次年度も継続的に関わりながら、さらに「ホリスティックな学校づくり」の可能性を模索し、外部社会への発信へとつなげていくための準備段階として位置づけたい。
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