本研究は、「ホリスティックな学校づくり」を試みている学校の実践に臨床的にかかわりながら、現代社会と教育が直面している課題に処するための理論的な手がかりを得ることを目的としている。 環境教育・開発教育・国際理解教育・人権教育・福祉教育などの具体的な実践事例を収集し、いくつかの視角から分析することを通じて、実践の底流をなす根源的な見方・生き方を抽出した。それが、「ホリスティックな学校づくり」という視点である。さらに、本研究では、「ホリスティックな学校づくり」を抽象的に語ることを避け、現場のリアリティをふまえて理論構築を行った。とくに、さまざまな「問題」が表出する中等教育段階(とくに、高等学校)に焦点を合わせ、参与観察とインタビューのドキュメント、さらに膨大・な歴史資料の分析を行った。その結果、ホリスティックな学校づくりは、(1)<いのち>の視点に立ち「生徒を大切にする」(自由や規律という「関係の切断」としてではなく)ことを中心に据えること、(2)生徒が置かれた環境(状況)を読み取ることから始め環境を整えるようにかかわっていくこと、(3)教師の自己省察をもとに相互変容を促進していくこと、(4)地域や企業の問題を吸い上げながら地域との関係を再構築していくこと、(5)教師たち同志のコミュニケーションを促していくこと、(6)その際にコーディネーターとしての教師を育て適切な組織を創り出すこと、(7)ひとりで抱え込むのではなく常に集団にかえしていくこと、(3)一人ひとりがネットワーキングというつながり方を生かしていくこと、等々によって可能になることが明らかになった。具体的な方法もレベルでは、表現活動・体験活動の重視、新しい学習方法の工夫(NIEなど)、心身の全体性を回復させるゲームの実施、ピア・カウンセリングの導入、きめ細かな集団づくりなどについて理論的な検討を加えた。
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