研究者自身(寺田)が古典音楽の学習者として参与観察を行った。研究所と呼ばれる教習所における教授法・師弟関係を観察し、それと並行して関係者に聞き取り調査を行った。在阪の沖縄古典音楽団体にとって、創立記念公演は自らの活動を定義する重要なイベントである。平成10年6月に実施された野村流古典音楽保存会関西支部の創立25周年公演と、その半年以上にわたる準備過程(企画、運営、練習会、リハーサル)を記録した。特に、その過程で生じた様々な問題と解決のプロセスに焦点を当て、大阪の沖縄音楽文化内の多様性や社会関係の特徴を明らかにした。また、大阪市におけるエイサーの実態調査を行い、その特殊性(参加の動機、演奏者の社会関係、芸態)を、沖縄本島におけるエイサーと比較検討した。 関西に住む沖縄出身者(ウチナンチュウ)のアイデンティティーは本土文化との関係において形成・維持され、変化する。1970年代のエイサー隊の結成は、出稼ぎ沖縄人青年が本土文化の中で抑圧された自己を解放する手段の一つであったが、本土日本人(ヤマトンチュウ)の参加が近年増加するにしたがって、エイサーとウチナンチュウのアイデンティティーとの関係が問い直されている。古典音楽においても次代を担うウチナンチュウが少なく、伝統存続への配慮からヤマトンチュウを中心とした団体運営の可能性さえ模索されている。自己存在の証明であった沖縄音楽芸能が「大和化」される状況に関する様々な語りを、さらに詳細に記録・分析することが今後の課題である。ウチナンチュウは大阪府、兵庫県を中心として関西圏の広範囲な地域に在住している。各地域における音楽活動は、大阪市大正区の沖縄人社会を核としたネットワークを基盤に成り立っており、このネットワークに関する総合的調査が必要である。
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