研究概要 |
本年度は、上記研究課題のうち、近代日本最初のフェミニスト=岸田俊子(中島湘烟 1861〜1901)の人生行路と確認と、彼女の代表的評論『同胞姉妹に告ぐ』(1884)に展開された男女相愛の思想〈愛憐〉の具体的内容の検討、さらに中島信行との現実の結婚生活における俊子の理念の実践についての考察を踏まえて、日本近代社会のシステム確立期における〈女性〉に関する意識変遷のなかで、俊子の女権論・女子教育論の理念的先駆性と実践的連続性を把握することに努めた。その際、本年度の設備備品として購入を予定していた『叢書「青鞜」の女たち』全20巻(不二出版)が絶版になったため、『日本女性史論集』全10巻(吉川弘文館 刊行継続中)他の書籍を入手して、女性史の研究状況を把握する際に活用した。また、俊子に先行する西洋の女性解放運動家Mary Wollstonecraft, Millicent Garrett Fawcett, Ellen Karolina Sofia Key, Loise Otto-Peters, Hedwig Dohm, Helene Lange, Malvida von Meysenburg, Fanny Lewaldらの女権論・女子教育論を考察するための参考文献収集に努めたので、来年度の課題のひとつとして、とくにドイツの女権論者の提言との比較・対照をとおして、岸田俊子始め近代日本女性解放論者の意識・文筆活動の考察をめざしている。さらに、今年度の本研究業績関連の論文として、俊子と同時期の評論家=高山樗牛(1871〜1902)の病床随筆・書簡を考察対象とした「『太陽』文芸欄主筆期の高山樗牛--個人主義的国家主義から絶対主義的個人主義への必然性」(「日本研究」第17集 1998・1)などをまとめたので、来年度は、これらの論文での成果をもとに、『湘烟日記』(1903)に記された俊子自身の生命観・人生観を考察することによって、その自己表現獲得の営為の意味を相対的に位置づけ、俊子に続く女性作家研究の糸口としたい。
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