研究概要 |
本年度は、上記研究課題のうち、近代日本の女性作家たちと直接の影響関係を論ずることはできないが、その女子教育論の内容や作家活動の意味の認識などにおいて、類縁性を見出すことのできるドイツ女性作家および作品についての検討を中心に進めた.すなわち、小説『シュテルンハイム嬢の物語』(1771)によって、ドイツで初めて成功した女性作家とされているラ ロッシュ(Sophie von La Roche.1730〜1807)の、読者に直接訴えかける書簡体という手法や、常に女性読者を意識しての女の生き方を説いた内容、また作家自身が受けた女子教育の背景・内実を確認し、この作家が、手紙という書き言葉と話し言葉の中間に位置する言説を駆使して、自己(=女であること、女性作家であること)の認識表現を獲得したことを考察.女子職業教育や社会福祉活動への熱意など、生き方のうえでも、岸田俊子(中島湘烟)や清水紫琴ら、自由民権期の近代日本女性作家たちとの共通点を有することを確認した.また、女性による初めての雑誌『ボモナ』を発行・編集し、女性読者と共同の場を用意したことも、平塚らいてうや長谷川時雨たちの活動の先例として対照されることを認識した. 今後の課題としては、フランス革命や資本主義の発達による社会構造の変容を背景に、ドイツでも概成の家庭観や男女関係観を揺るがす女性論が流行した近代フェミニズム幕開け期の小説--ヴォーベーザー(Wilhelmine Karoline von Wobeser,1769〜1807)の『エリザ、またはあるべき女の姿』(1795)などとの比較対照.さらに来年度は、雑誌『女性』全72冊(復刻版 日本図書センター)など、モダニズム最盛期となる大正・昭和期に刊行された雑誌掲載の女権論・女子教育論・両性問題論を考察し、近代ジャーナリズムにおいて女性をめぐる言説がどのように展開されていったかを把握してゆきたい.
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