上記の研究課題を実施するために賃借権を中心とする不動産利用権、借地借家法などに関するわが国及び諸外国における文献を収集した。また、文献の収集とあわせて、実態及び問題点を把握するために聞き取り調査及びアンケート調査を行った。聞き取り調査及びアンケートの調査の結果、主として、(1)敷金の金額に格差があること、(2)敷引き額の合理的根拠が明確にされていないこと、(3)敷金が受領後どのように管理されているか明確でないこと、(4)建物全体の共益費について明細報告がないことなどについて問題があることが明らかとなった。これらの問題については、これまで賃貸人及び賃借人の法的義務が論じられてこなかったことに原因がある。これらについては、アンケートの具体的比率を明らかにし、それぞれの法的義務を検討した。 また、最近の裁判例でも敷金の返還請求権の存否又は返還額が争われる場合が極めて多くなっている。これらの裁判例により、敷引きに関する一定の判断が示されているが、敷金に関するごく一部の問題にとどまっている。 諸外国では、敷金に関する賃貸人及び賃借人の義務を立法によって明文化している例が少なくない。わが国では、敷金に関するトラブルが多く、借家法等の改正の度に検討項目に挙がっているが、立法が実現しなかった。わが国の立法の欠如に問題がある。 そこで、敷金に関する諸問題について、従来の判例法理及び本研究により新たに検討した賃貸人及び賃借人の法的義務に基づき、一定の立法的措置を提案した。
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