昨年度は、19世紀にドイツ帝国(第二帝政)が統一・形成される過程で生じた領土問題や統一後の政治運営を考えるための基礎作業として、主要な政治的アクターの経歴に分析を施し、同時に背景にある政治制度や状況についての研究書を読み進めた。特に、この経歴分析を通して、大都市の市長(Oberbuergermeiste)やプロイセン西部に配置された知事(Oberpraesident)、各邦の君主や有力貴族などの統治エリートについて、基礎的なデータ作成とその解析に着手した。今年度は、この基本データ作成及び解析作業の完成を目指すことと並行して、いくつかの研究テーマを設定した。一つは、地方統治エリートの研究であり、プロイセン東部については、ユンカーに代表される貴族層を対象とした。その際、比較対照としてプロイセン西部地域を選んだ。プロイセン西部は統一過程でいくつかの独立国家を「併合」した地域であり、ここでは知事などを中心とした内務行政が進められた。従って、プロイセンの東西比較は、プロイセンの地方政治解明に好ましい研究素材であるとともに、プロイセンの中央地方関係の特色を知る手がかりとなった。第二は、中央地方関係の分析である。他国とは異なり、ドイツ帝国の場合、「外交」は単なる諸外国との関係を指すだけではなく、帝国があるタイプの連邦制を採用しているために、国内的にも「外交」分野とそれを担うメンバーが存在しており、こうした「外交団」による国内の外交関係が、統一の進展と共にどのように中央地方関係へと変化したのかを考察した。第三の研究テーマは、上述の中央地方関係分析などを前提に、帝国と、プロイセンを代表とする各邦との関係を考察する上で、特に重要な影響を有したアクターである「皇帝(=プロイセン国王)」と「宰相(=プロイセン首相)」との関係を、両者のみならず、周辺に位置していたメンバーの日記や伝記などを手がかりに、考察した。2年度にわたり続けてきた考察から得られた知見については、将来論文の形で発表することを予定している。
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