本研究では、静学的な貿易モデルに国内の社会的共通資本を環境要因として取り入れ、比較優位構造の決定や貿易利益に関する理論的分析を行った。 まず、2種類の最終財(私的財)、私的生産要素(労働)、社会的共通資本から構成される経済モデルを構築した。社会的共通資本はインフラストラクチャーのようなもので、料金を支払うことによって利用できるが、利用の総量が多くなると混雑を引き起こし、その生産性が下がると仮定する。労働供給量や社会的共通資本のストックは一定であるとする。さらに、私的財の各市場は完全競争的であると仮定する。また、ある財の生産において労働一単位あたりの社会的共通資本サービスの利用量が他の財のそれよりも大きければ、その財の生産を社会的共通資本集約的であると呼ぶことにする。 このようなフレームワークのもとで、次のような結果を得た。第1に、いくつかの仮定の下で、一人あたりの社会的共通資本ストックがより豊富な国は、自由貿易において社会的共通資本集約的な財を輸出し、他の財を輸入する。第2に、一人あたりの社会的共通資本ストックの豊富な国において、社会的共通資本サービスに過度に低い利用料金が設定されている場合には、少量の貿易の開始によって閉鎖経済の時よりも経済厚生が下がりうる。第3に、自由貿易の均衡における経済厚生が閉鎖経済下でのそれよりも高くなるための十分条件を導いた。その十分条件は、それぞれの均衡における社会的共通資本サービスの利用総量と単位費用などに依存したものである。
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