本研究では先ず、市場主導型地域貿易協定、政策主導型地域貿易協定の過去から現在にいたる動向調査を行った。結果、市場のサイズやダイナミズム、資金の供与国の存在、産業・貿易構造の補完性等、経済重力(金融重力も含む)によって、地域貿易統合がもたらされることが示され、APEC等の南北地域貿易協定の可能性が示唆された。次に、APECの進化態様に関する応用一般均衡世界貿易モデル分析では、APECが開かれた地域主義へ、自由貿易世界へと流れる内在誘因を有していることが明らかにされた。我が国のように、特に“開かれた"貿易協定から恩恵を受ける国は、貿易・経済諸協定が“開かれた"ものであることを絶えず主張していかねばならない。地域貿易協定への(特に発展途上諸国における)新動機である、「安全地帯」、「深い統合」、「保険」および「買い上げ」動機などは、新しい地域主義による経済厚生水準高邁の可能性を高めることが示された。発展途上諸国にとっては、地域貿易協定への加盟の正の経済利益があるならば、それは、こうした改革開放に結びつく域内輸入の自由化に補完的な国内、国際改革を通してである場合が多いであろうことが示された。すべての参加者が貿易協定により経済厚生水準の高邁を享受するために、先進国メンバーは途上国メンバーに柔軟な個別自由化行動を許すことが必要であり、また、新動機に裏打ちされた発展途上諸国の改革自由化を支持することは、長期的には先進国の経済利益の確保にも繋がることが示された。
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