本研究は、金融仲介機関のリスク管理手法を金融派生商品取引の実務及び理論展開の中でとらえることで、金融派生商品取引に伴う新たなリスクはもちろんのこと、伝統的取引に潜む複雑なリスクの存在を明らかにし、金融仲介機関の対応の意義を検討することで、金融機関のリスク管理が金融機関の情報生産においてどのような役割を果たしているかを明らかしようとする内容であった。そこでは、Value at Riskに代表される市場リスク管理金利技法は、理論的にも実務的にも大いに展開しており、実際に金融機関ALMとして利用されていること、信用リスク管理方法としてオプション・プライシング理論を取り入れた考え方については、急速な理論的進展が見られるが、現状では実務での利用はまだ緒についたばかりであることなどが明らかにされた。しかも、特に地域金融機関に対するヒアリングを進める中で明らかになった点は、銀行のALM活動成果は、貸出審査活動には十分還元されておらず、金融機関の情報生産機能を高めるにいたっていないことである。特に、理論面では、審査活動で想定されるようないわゆるクレジット・スコアリングと、ALM活動で一部取り込まれている信用リスク計量化との間の関連性が必ずしも十分でないことが、今後の研究課題として取り上げるべき点であることが明らかにされた。一方で、国債流通市場のLIBORスプレッドの計測を行なったことにより、社債流通市場でのLIBORスプレットが単純に信用リスクの違いによるものではないことが明らかになった。この点をさらに進めて考えると、オプション・プライシング技法を活用した社債データからの信用リスク量推計手法だけでは、十分な目的達成ができないことが示唆されていると見ることができよう。
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