平成10年度は調査フレームワークの構築のために、前年度までの文献サーベイで得られた知見をもとに、小売業および卸売業のパイロット調査を行った。その調査結果から、売り手組織と買い手組織の関係を分析するうえで、新たに必要と考えられる視点が確認された。 すなわち、これまでサーベイした論文のほとんどは、両者の関係を経済学的フレームで分析し、合理的行動主体として売り手あるいは買い手組織を想定している。そのため、それぞれの組織を情報処理系として分析する試みがこれまで行なわれてきたものと思われる。しかし、組織間の関係を規定する要因は取引を中心とする経済的行為だけでなく、社会的関係作り自身を目的とする行為もあるということが、パイロット調査および我が国の商慣行に関する調査報告書から読み取ることができた。例えば、わが国の消費財市場において見られる、売り手企業が買い手企業の業務の一部を代替する行為(新店開店時における労務提供など)は経済学的フレームで理解することはむずかしいように思われる。そのため、消費財メーカーの売り手行動を埋解するためには、取引に焦点を当てた場合は経済学的フレームワークが有効であろうが、売り手と買い手の実際の行動パターンはそのフレームワークだけでは説明できないところがある。 そこで、社会学的フレームワークの有効性を検討する必要がでてきた。具体的には、大規模小売企業への調査結果を社会学的視点から再解釈するとともに、改めて大規模小売企業へ調査を実施することが次年度に向けての課題となった。
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