研究概要 |
本研究は,平均曲率の平方の積分を適当な制約条件下で極小ならしめる閉曲面を求めるという問題に関するものである.ここで云う制約条件はその閉曲面が囲む領域の体積と閉曲面の表面積がそれぞれ与えられた定数に等しいというものである.この条件付き極値問題の解となる閉曲面は赤血球の形状をモデル化したものと考えられている.今年度は主に次の2点について研究し,結果を得た. 1.(球面からの分岐解の存在)球面が一つの解になっていることに着目し,回転面の範囲でそれに近い解を分岐理論の考えに基づいて求める試みは既に20年以上前に行われている.しかしこれは形式的に解を展開し最初の幾つかの項を求めたものに過ぎず,厳密な存在定理ではなかった.本研究ではまずこの点を重点的に考察した.その結果,この問題においては球面において線型化して得られる作用素の余次元が少なくとも2あるため,よく知られた分岐理論の標準的な定理をそのまま適用出来ないことが明らかになった.解の集合を変えないように適当な新たな未知数を方程式につけ加えることによってこの困難を回避できることを示し,厳密な存在定理を証明することができた. 2.(分岐解の安定性)上で存在が確認された分岐解の安定性を知ることが実際に赤血球の形態として実現される閉曲面を同定する上で重要になる.そのためには曲げエネルギー汎函数(即ち平均曲率の平方の積分)の第2変分までを正確に計算する必要がある.これまでに第2変分の一般公式を導くことができた.これは非常に複雑かつ膨大な計算を要するので,まず正確な変分公式を確立することが今後の研究の出発点になる. 今後の課題として,(1)分岐解の安定性の判定,(2)このような分岐問題を扱うための一般的枠組みの建設,(3)非回転面の解の構成が当面考えられるのでこの方面を研究する予定である.
|