この研究年度においては、主に磁場中のシュレディンガー作用素の構造の解析を目的に研究を行った。特に、磁場中のシュレディンガー作用素の半古典極限におけるトンネル効果の評価は未解決の部分が大きいが、次のような結果を証明することが出来た(「Tunneling estimates for Schrodinger operators」東京大学数理科学研究科プレプリント、投稿中)。電場のポテンシャルが解析的な場合、(強い)定磁場中のシュレディンガー作用素の固有関数は、磁場がない場合より大きな指数で(半古典極限において)減衰する。この結果は、ポテンシャルが回転対称な場合は最良の結果であり、定量的に磁場の影響が評価できるという点で新しいが、回転対称でない場合は簡単な実例においても最良でないことが分かる。この問題については、さらなる研究が必要であり、研究を継続する。また、これに関連する研究として、相空間でのトンネル効果の基礎理論に関する結果をまとめた論文を作成した(「Agmon-type estimates for pseudodifferential operators」、東京大学数理科学研究科プレプリント、投稿中)。 また、強い磁場中のシュレディンガー作用素のスペクトルに関する、1.Herbst氏(米・Virginia大学)との共同研究を完成させた(「Quasi-periodicity of spectrum for magnetic Schrodinger operators」、論文集に出版予定)。磁場が強いとき、一般には、スペクトルは磁場の強さのパラメーターに関して準周期的な挙動を示すことが証明された。この準周期性は、磁場が消える領域の幾何学的な構造に起因するものであり、ユークリッド空間で考察しても磁場が十分強ければ、Aharonov-Bohm効果が観察できることを意味している。
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