一般にアモルファスに属する炭素材料の電子論を考える時、すぐ障害となるのは原子スケールでの構造同定の難しさ、すなわちその構造の汚さである。その中で我々が注目している一つは、有限サイズを持ったグラファイト断片、その中でもナノメータサイズの「ナノグラファイト」の電子状態である。このナノグラファイトは、サイズとしてはバルクのグラファイトと、ベンゼンやナフタレンなどの芳香族分子の中間に位置する、言わばグラファイトのメゾスコピック系である。有限サイズを持つということは、当然グラファイトとして端を持つことになる。グラファイトの切り口としては軸に対して30°の違いで、armchairとzigzagと呼ぶ2種類の典型的な端の形状が得られるが、ナノグラファイトのフェルミ準位近傍での電子状態は、端の形状によって全く変わることが分かった。特にzigzag端を持つ場合は、フェルミ準位に「エッジ状態」と呼ぶ状態を形成し、特に系がナノメータのサイズを持つ時に、その寄与は最大となることが示される。このエッジ状態の存在が、電気伝導、磁性さらにはド-ピング効果などにどの様な影響を与えるかを研究する。 これらの基礎理論的研究をベースに提案したいのは、積極的なナノ加工グラファイトへの実験的アプローチである。構造的に同定され得るナノサイズで構造をコントロールされたグラファイトを合成し、理論と実験が連携することで、従来の炭素材料より高性能な機能性材料の創製を目指す。現在既に進行しているのは、東工大榎教授による、ナノグラファイトを熱処理することによるナノグラファイトの作成、及び早稲田大大島教授による固体基板のステップエッジの形状制御を利用したナノグラファイト作成である。
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