融点直上の液体イオウは、王冠の形をした8員環分子から成る分子性液体であるが、数千オングストローム以下の非常に薄い試料空間に閉じ込め、レーザーを照射すると、(1)8員環分子の開裂、電荷移動錯体の発現、(2)鎖状高分子の生成、さらには(3)巨大分子の生成と秩序形成というミクロからマクロスケールにおよぶ広い範囲で興味深い構造変化を起こすことが最近の我々の研究で明らかになった。本研究は、この現象の生成および緩和機構を解明すると共に、さらに新規な現象の発見を目的として行なわれた。 1.ICCD検出器を用いた過渡吸収スペクトルの精密測定 レーザー照射によって何がどのように生成されたのかを調べるために、照射直後の過渡吸収スペクトルを一時にかつ正確に測定することが是非とも必要である。これを達成するために、ICCD検出器を購入整備し、これを用いてレーザー照射直後の過渡吸収スペクトルのナノ秒時間分割測定を行なっている。 2.パターン形成 構造変化の最後の段階におけるパターン形成の問題を明らかにするため、現有のビデオカメラを連結した高倍率の光学顕微鏡を用い、レーザー照射中および照射後の変化をその場観察により調べている。 3.液体セレンの過渡吸収スペクトルの測定 イオウと同族で、代表的な液体半導体である液体セレンにバンドギャップエネルギーをもつレーザーを照射したところ、透過光が50パーセント以上も減少するという大きな光黒化現象が観測された。15mJ/pulse以上のレーザーを照射した直後の過渡吸収スペクトルから見積もった光学ギャップはほとんど閉じており、光誘起半導体-金属転移が起きている可能性が強いことが判明した。
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