低次元性という制約を持つ有機伝導体の電子系にさらに空間サイズの制限を加え、並進対称性の破れや自由度の有限化をもたらすとき、特異な新規電子状態が期待される。この研究では、選択的な修飾を施した分子を用い、溶液中での電気化学法等を用いて、バルクの母体結晶の表面に、母体に類以した構造でありながら、かなり異なる電子物性をもつ有機導体結晶の薄膜を形成させることを試みた。構造体の物性評価をおこなうとともに、有機結晶成長技術と先端的微細加工技術を結合して、メゾスコピック構造体の作成の可能性について検討を行なった。 また、特に本年度に得られた重要な成果として、成長させるべき物質の制御を容易にするという目的のもと行なった、電子親和力、分子間結合様式の制御に関する研究について報告する。ドナー-アグセプター型電荷移動錯体における、分子の化学修飾による電子状態制御の結果、電子供与性分子としてBETS、電子受容性分子としてC12TCNQを用いた錯体単結晶において、5kbar程度の圧力下において、超伝導相があらわれることを発見した。この錯体は、ドナーアクセブター型有機電荷移動錯体としては初めての超伝導体(転移温度約1K)である。さらに、この錯体では圧力の制御によって絶縁体相が発現することも明らかにし、圧力、化学修飾等の制御をもとに、その多彩な電子状態について集中的な研究を行なった。
|