研究概要 |
2次元超流体の平均場理論に対する補正を考えるとき、最も重要なのが低次元系特有の秩序パラメーターのゆらぎの効果である。本年度は秩序パラメーターの量子力学的ゆらぎに着目し、これによって引き起こされる位相の巨視的量子トンネリング(Macroscopic Quantum Tunneling,以下MQTと略記)とその帰結を研究した。 1) Decay of Superflow Confined in Thin Torus:Quantum Nucleation of Phase Slips非常に細いトーラス状の超流体の超流動は、絶対零度においてすら、真の永久流ではありえない。循遥の量子化は永久流を準安定にするものの、量子力学的トンネル効果によってより小さな循環量子状態に移ることが可能だからである。このような量子力学的過程は2次元系では超流動相・局在相間の量子相転移を引き起こすと予測される。我々は上記表題をもつ投稿中の論文において、経路積分法に基づき、位相のMQTによる超流動速度の減衰率を計算した。具体的には、1だけ異なる位相の巻数(winding number)をもつ、全エネルギーの二つの極小点と、その間にある鞍点を結ぶインスタントン階を数値的、解析的に求め、それを基に巻き数がひとつ減少するMQT過程の有効作用を求めた。その結果、位相場のMQTに現れる有効質量はトーラスの周の長さLに比例することを示した。この結果は、永久流の熱的な減衰が、コヒーレンス長程度の局所的な領域で起こるのに対し、量子力学的トンネリングによる永久流の減衰が系全体の関与する真に集団的な運動によらざるを得ないことを明らかにしている。(投稿中、日本物理学会第54回年会発表) 2) Intrinsic Resistivity via Quantum Nucleation of Phase Slips in a One-Dimensional Josehson Junction Array上記の研究の中心的アイデアは1次元ジョセフソン格子にもはぼそのまま適用することができる。最近スウェーデンで行われた画期的実験(Chow et.al.Phys.Rev.Lett.81,204(1998))により、1次元ジョセフソン格子における超伝導・絶縁体転移の存在が示されたが、同時に、超伝導相で絶対零度の極限でも有限にとどまる電気抵抗が存在することが明らかになった。 我々は、この抵抗が上記1)と同様、超伝導秩序パラメーターの位相の巻き数がMQTによって減少する結果であるという予測のもとに経路積分法とWKB近似を併用した計算を行った。その結果、絶対零度における抵抗値がE_7/E_c(E_7;Josephson結合エネルギー、E_c:接合の静電エネルギー)の減少とともに増大して行く振舞を、任意パラメーターなしに、説明することができた。(投稿中、日本物理学会第54回年会発表)
|