誘電体の相転移現象をアコースティックエミッション(AE)測定を介して研究した。特に、ロッシェル塩結晶において現れる特異な2つの強誘電性相転移に注目し、その相転移過程およびその性質をAEで調べた。温度や電場の大きさを変化させ、AE、誘電率と自発分極の同時測定を行った。AEの温度依存性は、弱い電場領域では誘電率と、強い電場領域では自発分極と類似の振る舞いを示すことが分かった。さらに、発生するAEには、少なくとも2つの種類があり、その発生メカニズムは結晶格子歪みの揺らぎと強誘電性ドメイン反転に起因することが明らかになった。今後は、このようなロッシェル塩結晶において見られた特徴的なAEの振る舞いが、強誘電性相転移過程において普遍的なものであるかどうかを、他の誘電体物質についてもAE測定することで比較検討して、明らかにして行く。 また、固体表面上で動的相転移を起こしてスライディング運動をしている物質のエネルギー散逸現象を、AEと類似の物理的観点から捉えることで理論的に研究した。固体表面と相互作用している原子鎖モデルを導出し、計算機シミュレーションにより、外部駆動力によってスライディングしている原子鎖の挙動を解析した。それにより、この物理系のスライディング過程ではAEと本質的に類似の効果でエネルギーが散逸することを明らかにした。さらに、AEの原因となるスライディング過程での物質の格子歪みの動的振る舞いを明らかにした。また、理論的に摂動論に基づく解析的計算によってもこれらを説明することが可能であることを明らかにした。今後は、動的相転移の臨界外力値近傍での臨界挙動を同様に計算機シミュレーション等の方法で解析して行く。
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