研究概要 |
リゾチームは、X線構造解析により分子の立体構造が原子レベルで最初に解明された酵素である。基質を結合したときの立体構造の変化から、その酵素機能発現のメカニズムも同時に明らかにされている。リゾチームの結晶には、異なる母液温度による結晶多形が存在する。われわれは、この多形の生ずる境界温度域でのリゾチーム溶液の比熱を精密に測定することによって、吸熱性の小さな熱異常を確認した。この熱異常は無水のリゾチームでは観測されないが、一定量以上の水を含んでいる場合には、結晶、凍結乾燥粉末のいずれの状態でも観測される。この転移温度は含水率の減少とともに高温度域に移動する。 熱測定(DSC)の結果、この転移は顕著な熱履歴を示すことが明らかになった。即ち、第一回の昇温測定のあと急速に冷却して第二回目の測定を行った場合にはこの転移は観測されないが、転移温度以下の一定の温度に長時間保持すると再びこの吸熱転移が現われる。 次に、比較的含水率の低い領域で、リゾチームに水和した水の核磁気共鳴吸収(NMR)シグナルの横緩和時間(T_2)の温度依存性を側定した。その結果、この温度域で,T_2の著しい増大を観測するとともに、熱吸収の履歴に対応すると見られるT_2の熱履歴を観測した。 したがって、DSCやNMRで観測されたような緩和をともなう温度履歴現象はリゾチームに水和した水の運動性が時間とともにゆっくりと変化することによってもたらされているものと考えられる。 また、リゾチームにみられたこのような履歴現象は、ミオグロビン、アルブミン等の蛋白質でも観測されることからみて、蛋白質に水和した水の一般的な特性である可能性がある。
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