透析器(人工腎臓)は、直径200ミクロンで内部が中空の中空糸一万本を円筒容器に格納している。中空糸の内側を血液が流れ、外側を生理食塩水である透析液が流れる。血液中の老廃物は中空糸の膜を透過して透析液に吸収される。透析液の流れの均一性が不明であったため、大須賀は透析器内部の透析液の流れをガドリニウム造影剤を透析液流路に流して、医療用のMRI(核磁気共鳴画像)によって観察し、観察された造影剤の流れを数値計算し、透析液の流線分布と圧力分布を求めた。透析液に含まれる細菌が、中空糸内部の血液側に逆流(逆濾過)する危険があるため、透析液内部の造影剤が透析液の持つ運動量で、中空糸膜の内部へ潜り込む量の空間変化をMRIで観察した。逆濾過は透析液の流れと中空糸の向きが直行している透析器の両端付近の方が透析液の流れと中空糸の向きが平行している透析器の中央付近より多いことを結論した。従来透析液の流れを観察してきたX線CTは、造影剤が透析液の性質と離れていることから、MRIの優位を実証した。従来、透析量と逆濾過量は透析器の外部のみで一元的に計測されてきたことに対して、本研究では透析液の流動状態を厳密に観測して、透析器の能力の透析器内部での空間変化を測定した。 血液中の蛋白が中空糸膜内部に沈澱することは、光学顕微鏡の観察で確認されており、透析によって膜が劣化することは明らかである。核磁気共鳴顕微鏡は、分解能は10ミクロン程度で光学顕微鏡に劣るものの、水素に共鳴させた場合、水の分子運動と水に溶けている脂肪と蛋白の密度を決定できるという長所を持っているため、透析中の膜の劣化を観察する有効な方法と判断し、イタリアの核磁気共鳴顕微鏡を用いて、疑似血液を染み込ませた中空糸を膜の厚さ方向に複数個の画素に空間分解して水素密度の分布を観察し、蛋白の沈澱量の膜内部での空間変化を推定した。
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