研究概要 |
適切な分子構造を持つ高分子の溶液を水面上に滴下すると,溶媒の蒸発の後に高分子鎖が気-水界面に吸着して,いわゆる「単分子展開膜(L膜)」が形成される.本研究では,高分子L膜を擬二次元的な溶液と見なし,光散乱の方法によってその構造や動力学的な振舞いを明らかにすることを目的としている. 1. 光ファイバ及び小型光センサモジュールを用いた動的光散乱分光システムの作製 L膜という希薄な系に対して準弾性光散乱分光を行うため,本研究では既設の分光システムの改良を行った.入射系・散乱光集光系とも,単モード光ファイバを導入して光学アライメントを簡易化した結果,調整不良による効率低下が回避され,平均約50〜100%の効率向上が実現できた. 2. 表向レーザー光散乱(SLLS)分光システムの評価. 表面波による散乱光の光ヘテロダイン法による分光システムを設計し,光学系の組立,水槽の改造等を行った(9年度からの継続).当初,外乱となる振動の除去に苦慮したが,防振系の改良により表面波スペクトルのS/N比が向上した. 3. 高分子L膜の動的光散乱分光 主にPMMAのL膜について動的散乱乱分光を行った.現状では単分子膜内高分子の自己拡散の観測には成功していない.しかし,十分な面密度で展開した系については,表面弾性モードに起因すると思われるSLLSスペクトルの形状変化を観測した.これは展開膜内における高分子鎖の絡み合いが,弾性率の変化として観測されたことを示唆している.この系は,擬二次元系というには膜厚が厚いが,界面近傍数mmの領域に閉じこめられた準希薄高分子系として,その動力学的振舞いに興味が持たれる.さらに動的光散乱分光によって協同拡散モードを観測するため,光検出系の高感度化とバックグラウンド除去の信号処理法を現在検討中である.
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