流動組織の認められる地殻・上部マントル岩石の地震波速度異方性を測定した。弱い面構造のはんれい岩と顕著な面構造を示すかんらん岩について、ピストンシリンダー型高圧発生装置を用い、弾性波(縦波)速度を常温0.4〜1.3GPaで決定した。測定は面構造に平行で速度の速い方向と、面構造に垂直な方向について行い、かんらん岩についてかんらん石のa軸の選択配向により高圧下で7〜8%の速度異方性が認められた。一方はんれい岩の異方性は2%以下であった。これは主要構成鉱物の斜長石と単斜輝石があまり配向を示さないことと調和的である。 また顕著な層構造を示す成長大理石(トルテス)及び緑色大理石(グリーンフロー)について、それらの面積造に平行な方向と垂直な方向の縦波速度を常温常圧下で測定した。トルテスでは速度の最も速い方向で7.07km/s、速度の最も遅い方向で6.61km/sであり、異方性は6.5%であった。この岩石はほぼ方解石から成り、速度の速い方向に方解石が細長く伸びその方向にa軸が配向している。ちなみに方解石のa軸方向の縦波速度は7.29km/s、c軸のそれは5.57km/sである。グリーンフローはほぼ緑れん石と方解石から成り、最も速い方向で6.83km/s、最も遅い方向で6.05km/sである(異方性は11.4%)。この岩石は面構造に平行な面内で流動組織がほとんど認められず、鉱物が等粒状かつ等方的に分布している。そのためこの面内で速度異方性はほとんど認められない。さらにこれらの岩石と雲母岩について減衰係数(Q値)の測定も行った。アルミニウムの減衰係数が非常に小さいので、同一条件で岩石とアルミニウムのパワースペクトルを測定し、その比の対数をとったものは、岩石中の減衰により周波数と共に減少する。その傾きからQ値が求められ、大理石試料について常温常圧下でQ=20前後、明瞭なクラックの認められる雲母岩で小さくQ=3であった。これらの値はこれまで測定された岩石のQ値と調和的であり、また地殻表層で地震学的に調べられているQ値ともよく一致する。
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