研究概要 |
小笠原諸島父島はエルニーニョ現象の鍵を握る西太平洋暖水塊の北端にあたり,この海域のサンゴ年輪試料を用いて過去の海面水温や塩分の復元をおこなうことは,気候変動の研究において重要な意味をもつ.しかし,サンゴ年輪の酸素同位対比やSr/Caが実際どの程度の時間分解能で過去の環境変動を復元しうるかについては,厳密な検討が行われていない.そこで塊状サンゴの横に観測点をもうけ,連続的に水温・塩分の記録をとった後,サンゴのコアをとり,実測した水温・塩分とサンゴ骨格の記録を比較する目的で,このような観測に適した場所をサンゴ礁の調査により選定した.サンゴ年輪研究に最適の大型の塊状サンゴが分布することと,強い波浪による水温・塩分計の破損の可能性が少ないことを考慮し,父島の宮乃浜沖の水深約5mの海底に,水温・塩分計を設置した.この水温・塩分計は1年間記録をとり続けた後,今年10月に回収すると同時に,サンゴコアを採取して直ちに1日単位の時間分解能で金属元素の分布を測定する予定である. サンゴ年輪の記録を用いて過去の塩分を推定するさいには,酸素同位対比とSr/Caの両方を正確に測定する必要があり,長時間の記録を復元するには膨大な手間と時間がかかるため,現実的ではなかった.従来の研究でサンゴ試料にγ線をあて,ESR(電子スピン共鳴)測定を行うと,CO_2-とSO_3-の信号が観測され,これらの比をとると酸素同位体比の変化と酷似した変化を示すことが知られていた.ESRでは,少量の試料から信号の絶対強度を測定し,比較することは困難なため,これまで行われていなかったが,厳密に条件を統一して各信号の信号強度を測定したところ,CO_2-は水温の変化を示していること,SO_3-は塩分のみの変化を示している可能性の高いことがわかった.
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