フーリエ変換分光器はパルス現象の観測には不向きと見なされているが、これを実現する手法として既に実現されているステップスキャン法等とは全く異なる新しい原理に基づく方法を考案した。本研究は、この方法の実証研究を行うことを目的とする。 現有の連続スキャン方式のIFS120HRフーリエ変換分光器によるパルス現象の測定を可能にするために、信号処理回路に次のような変更を施す。インターフェログラムが増幅されてAD変換器に入る直前において信号を外部に取り出し、下記のようなスイッチング回路を通したのちAD変換器に戻す。このスイッチング回路は、パルス現象に同期しており、パルスがONの期間にはシグナルを通過させ、OFFの期間には阻止する。信号源がそもそもパルス的であることと上のようなスイッチング回路を通すことで、AD変換器に戻された信号には、フーリエ変換を行ったとき偽のスペクトルを与える成分が含まれてくる。偽のスペクトルの妨害を逃れるためには、適当なバンドパスフィルターを光源と検出器の間のどこかに挿入しなければならない。 本年度は、まずスイッチング回路を設計製作した。つづいて、ふつうのガスセルにベンゼン蒸気を詰めた定常的なサンプルを用いて、スイッチング回路の動作、及びこれを用いて測定されたスペクトルが予測通りに現れることを確認した。テストシグナルとしてベンゼンのA-X吸収帯の6_0^1バンドを38400-38800cm^<-1>の領域で測定した。バンドパスフィルターの役割を果たすものとして小型回折格子分光器を検出器直前におき、上記波数領域のみを通過するようにした。繰り返し100Hzデューティ比10%のスイッチング回路を通して測定されたシグナルのS/N比は、スイッチング回路を通さない場合のS/N比のおよそ1/3であった。これはS/N比がデューティ比の平方根に比例するという予測と一致した。
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