研究概要 |
1,3-ジエンにおいて、2つのオレフィンをつなぐ単結合で十分にねじると共役系は切れ、一方のビニルC-H結合は他方のオレフィンのπ軌道とσ-π軌道相互作用することにより活性化されると予想される。しかしこのようなビニル水素の反応性について研究された例は見られない。本研究では“ねじれ"という単純な概念に起因する1,3-ジエンの特異な性質としてビニル水素の反応性に焦点を当て、その新たな反応性と合成的展開を検討した。 私たちはすでに、十分にねじれたcis-β-ionol誘導体の一重項酸素酸化について検討し、アリル水素に優先したビニル水素の選択的なエン反応を見いだし、その結果としてアレン化合物を62%の収率で得ている。そこでこの反応を光学活性な3-alkoxy-9-cis-β-ionol誘導体に適用し、その一重項酸素酸化によってアレンジオール化合物を得た。次いで側鎖のアリルアルコールの官能基および立体選択的なアリル転位に成功し、カロテノイドであるパラセントロンのアレン部の合成に成功した。 他方、鎖状の十分にねじれた1,3-ジエンを取りあげその合成法を検討した結果、ビニルトリフラートと金属アセチリドとのPd(0)触媒によるカップリング反応、つづく選択的な水素添加による合成法を確立した。次いでこれらの一重項酸素酸化反応を検討した結果、嵩高い置換基を持った系ではアリル水素に優先してビニル水素の選択的なエン反応がおこり、アレン化合物が70%の収率で得られた。一方、置換基効果のないねじれた1,3-ジエンの系では、アリル水素とビニル水素の持つ固有の反応性を比較することができ、その結果、十分にねじれた1,3-ジエンのビニル水素はアリル水素と同程度の反応性を有するという結果を得た。これらの結果は、各々のフロンティアオ-ビタルの電子密度の計算結果とよく対応しており、その妥当性が裏付けられた。
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