研究概要 |
結晶中の分子配列を制御することは、非線形光学効果、磁性、電気伝導性といった分子結晶の機能発現に重要である。これらの機能発現のためにはπ共役系分子を構成成分とする必要があるが、π共役系分子の形態的特徴は、その平面性と剛直性である。そのような配向を強制的に規制した場合、結晶中には埋めきれない空間が生じてしまうだろう。その空間を包接サイトとして利用すると、もう一成分を組み込んだ超分子や結晶を作製することができる。そこで、本研究では、π共役系分子を繋ぎ合わせた超分子をπ共役系のホスト分子として取り上げ、このような超分子結晶の構造・物性を調べ、この物質設計の有効性を検討することを目的としている。 ターゲットとなる分子は中心ベンゼン環に6つの周辺芳香環を置換したもので、周辺芳香環はお互いの立体反発を避けるように中心ベンゼン環平面の上下に突き出さなくてはならず、その自由度はふたつの芳香環を結びつけるイオウによって与えられる。周辺芳香環としてナフタレンを用いた化合物の合成には成功しているが、この分子に第二成分を包接させた結晶の作製には現在のところ成功していない。単純な包接だけでなく、酸化還元反応を利用して、πラジカルホストとする試みも行ったが、予想していた電子供与体としての性質は示さず、電気化学測定では逆に電子受容性を持っていることが明らかになった。しかし、その能力は極めて弱く酸化還元過程を利用することはできない。そこで、水素結合によるホストーゲスト相互作用へと展開するために周辺芳香環に6つのピリジンを導入した化合物の合成を試みたが、種々の異性体からの単離が困難であるため、現在中心ベンゼン環の1,3,5位のみへの周辺芳香環の導入へと切り替えて合成を進めている。
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