本研究は、光異性化のような光感受性をもつ極性有機分子と、向きや孔径のそろった微細孔をもつ多孔質無機母材を組み合わせて、その微細孔中に光感受性分子を整列導入させて新しい有機/無機複合材料を創製するための基礎構築を目指した、二年度にわたる萌芽的研究である。 初年度の今年度は、まず、光励起により分子極性が大きく変化しうる有機分子として4'-シアノ-4-ジメチルアミノアソベンゼン(以下AB)を合成し、同定した。その結晶構造解析にも成功し、分子内電荷分布の算出にも用いうる原子座標を決定した。ABの溶液中での光感受特性についても紫外光源を使って調べた結果、速い光異性化を示唆するスペクトル挙動を検出した。次に、多孔質無機母材としては、ゼオライトや陽極酸化アルミナなどと比べたうえで、微結晶状態ながら微細孔の向きや孔径のそろったメソポーラスモレキュラーシ-ブを選び、直径27nmの孔をもつFSM-16をまず取り上げることにした。 その後、ABをFSM-16の微細孔中に導入する試みを、減圧封管中での気相導入法により開始した。ABと前もって減圧加熱したFSM-16をガラス管に減圧封じし、一定時間の加熱後、取り出した試料の熱分析、分光測定、X線回折によるキャラクタリゼーションに努めている。これまで、その赤外線吸収スペクトルは両出発物質とは異なり単なる混合物とよく似ていて、電子吸収スペクトルはFSM-16、混合物のどれとも異なり、粉末X線回折はABや混合物とは異なってFSM-16と似たパターンを与えたことから、ABがFSM-16の微細孔中に導入されたことが示唆されている。現在、分子の導入状態について詳しく調べつつあり、また今後は、無機母材への電場印加下での分子導入など分子配向の制御促進に関わる工夫も図って、本研究目的の達成に取り組みたい。
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