研究遂行の第一段階としてホスファイト法における動的速度分割による光学活性有機リン化合物の不斉合成において促進剤として不可欠である光学活性アミンとして、中心不斉あるいは軸性不斉を有する光学活性ピリジン、イミダゾール、ベンズイミダゾールの合成法を確立し、10種類以上の誘導体を調整した。ついでこれら光学活性アミン促進剤を用いるホスファイト法による非対称置換リン酸トリエステルの不斉合成およびジヌクレオシドホスホロチオエ-ト、ジヌクレオシドメチルホスホネートなど、インターヌクレオチド部のリン原子上に不斉中心を有するヌクレオチド誘導体のジアステレオ選択的合成を試みたが、予期に反してまったく立体選択性は見られなかった。この結果は、本研究者等が、ある代表的な反応系を調べることにより推測した、アミン存在下におけるトリアルキルホスファイトのエステル交換による新規非対称置換ホスファイトトリエステル形成反応の機構、すなわちホスファイト法の反応中間体として、促進剤であるアミンがリン原子と共有結合した2種類のジアステレオメリックな関係にある化合物が生成し、これらが熱的に早い平衡にあるという反応機構が一般的でないことを示唆するものかもしれないという結論に達し、現在、以前提出した反応機構の一般性あるいは適用範囲について再度検討中である。今後、反応機構の再検討の結果を踏まえ、促進剤の分子設計ならびに反応系(標的化合物)の絞り込みを行う計画である。
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