研究概要 |
物質中の水素原子に負のパイ中間子が捕獲されるとパイ中間子水素原子が生成され,それは70MeVの2本の特徴的なガンマ線で高感度で観測できる。これを利用すると,試料中の水素の空間分布や状態分析が,かさ高い試料に対しても非破壊で可能となる。本研究では,このアイデアの方法論の検討と実用への基礎研究を行う。 そのために具体的には次のような課題を設定していた。(1)2γ線による空間分布測定法の検討,(2)テスト実験による方法論の検証,(3)捕獲モデルの確立。この内,これまでに(3)について主に実験的研究を行い,(1)と(2)は現在進めているところである。 水素を分析するという立場から中間子原子・分子現象を見ると,物質中でのパイ中間子水素原子の挙動に関する定量的理解が必須である。これに関して,当申請者のグループは,これまで多くの成果を上げているが,以下に示すように,さらに詳細かつ新しい知見が得られ,捕獲機構の総合的モデルの構築を理解を進めている。 1.水素原子によるパイオニックX線の変化:分子中の水素にパイ中間子が捕獲された時,中間子水素原子として化学結合から遊離するか,結合している原子にパイ中間子を転移(Internal transfar)させるかの過程が起こる。後者の情報は水素原子の状態に関する重要なものであるが,観測は困難である。本研究では,唯一変化を与えるパイオニックX線の強度変化を精密に測定し,カスケード計算等によりその機構の定量的理解をはかった。 2.転移過程の動的挙動の解明:遊離したパイ中間子水素原子は衝突の時に他の原子に中間子を転移(External transfer)させるが,その過程はこれまで現象論的にしか取り扱われていなかった。本研究で初めて気相での精密測定を実現し,転移速度の圧力依存性を示すデータが得られ,動的側面の理解が進みつつある。
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