研究概要 |
染色体による性判別のための予備調査を行なった結果,ワタフキカイガラムシ類では染色体の観察が可能であったが,ロウムシ類やその他のカタカイガラムシ類については,条件をさらに検討する必要があった。とくに染色体観察用の標本を作成する発育段階によって染色体像が強く影響された。ロウムシ類のうち,カメノコロウムシで配偶行動の調査を行なった。オスの寿命は実験室条件下でほぼ1日未満であることがわかり,配偶行動,オスは主要な寄生バチよりも小型であり超拡大撮影装置の使用が観察には不可欠だった。また,カメノコロウムシでは,オスが成虫になった段階(この段階ではメスはまだ若虫である)での性比は強くメスに偏っており,配偶行動を観察するためには想定されていた以上に多数の試料が必要であった。一方,イボタロウムシでは,性比はオスが成虫になった段階で極端にオスに偏っており,予備的な調査では,メス1に対してオスは100を越えていた。イボタロウムシのオスはカメノコロウムシに比して著しく大型で寿命を実験室条件下で1週間程度であった。イボタロウムシにおいては,交尾行動の観察のためには,メスを十分な数だけ確保する必要があった。また,これまでの研究で,メスのみを産出する単為生殖を行なうことが明らかにされているマンゴ-カタカイガラムシを用いて,超拡大撮影装置により1齢幼虫間の相互作用を調べた。1齢幼虫は母虫から離脱後,活発に移動した。1齢幼虫が姉妹である場合には,そうでない場合に比べて,個体間の反発が強かった。これは,生息場所が高密度であるほど適応度が低いという単純な仮定からの予測と一致した。また,この結果は,半翅目昆虫における血縁個体識別の初めての例であり,日本動物行動学会大会(題名 カイガラムシ1齢幼虫における姉妹と非血縁個体の識別)で発表した。
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