研究概要 |
カタカイガラムシのうちロウムシ類の1種であるカメノコロウムシ(Ceroplastes japonicus)の交尾行動について調査した。この種では,オスが成虫になった段階での性比はメスに偏っていた。前年度にオス寿命が約1日以内と非常に短いことが判明したので,オスを大量に用意し,交尾の際の行動とオスのあいだの競争について室内で観察を行なった。オスは遭遇しても顕著な相互作用を示さなかった。このことから,オス間競争はあるとしても,直接物理的な接触を伴うようなものではないと考えられる。 また,マンゴーカタカイガラムシMilviscutus mangiferae1齢幼虫における分散行動が血縁認識に基づく調節を受けることは昨年度に実内実験により判明していた。遭遇する他個体が血縁個体であるときに移出傾向が強くなることは,理論的には,多くの実証的研究で生息場所での密度と適応度が低下するときに期待される。しかも,生息場所での密度と適応度の負の相関があればその他の条件にはほとんど依存せずにこの予測が成り立つ。今年度は,昨年度の室内実験に対応した条件での野外実験を行い,1齢幼虫の密度が適応度に与える影響を調査した。寄主であるホルトノキの葉への移出・移入を制限して,葉裏に1頭ないし2頭のメス1齢幼虫を接種した。接種したカイガラムシがメス成虫になった段階で葉とともに回収し,成虫の体サイズ(蔵卵数を反映している)を計測した。1頭区の方が2頭区よりも体サイズが大きかった。この結果は,分散行動の調節が適応的であることを示しているだけでなく,近親交配との回避などの要因ではなく(マンゴー力夕カイガラムシの当該個体群はオスを欠くため近親交配はありえない)血縁個体との競争回避によることを示している。
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