最近、STMを利用した表面加工の研究が精力的に進められている。本研究では超イオン伝導体を加工用探針として用いることにより、表面加工材料(金属原子)を大量に貯蔵し、基盤表面への原子付加を多数回連続して行う手法の開発を試みた。探針材料としてβアルミナを選び、双探針STM装置を使って、テストを行った。 1. βアルミナへのAgイオンの注入 Na-βアルミナ結晶をAgNO_3中で煮沸し、NaをAgで置換し、Agイオンを探針材料に注入した。電子顕微鏡内で、電子線を照射し、Agを析出させることにより、貯蔵されたAgイオンの量を評価した。その結果、煮沸処理にAgNO_3の飽和水溶液あるいは融液を用いれば、実用上制限がないほどの量を探針内に貯蔵できることが分かった。高濃度液処理時に表面に付着するAgNO_3結晶はエタノールあるいは温湯を用いて除去できた。 2. Ag-βアルミナ探針を用いた表面加工 探針材料の劈開性(c面に平行)を利用して探針の成形を行い、双探針STMの片側探針として取り付けた。外部電源を用いて、探針に電圧(パルス)を印加できるように、プリアンプ系を改造し、Ag-βアルミナ探針から試料表面へのAg原子の付加を行った。加工用探針を用いた表面のSTM観察にはまだ成功していない。2探針間の相対的な位置ズレを試料移動で補償する機構が完成すれば、もう1本の探針を利用しての加工表面のSTM観察が可能となるが、まだ観察は行えていない。走査電子顕微鏡を用いて加工表面の観察を行った。探針の走査に伴って、Agのワイヤが表面に形成されているのが確かめられた。ただし、そのサイズは大きい。加工表面のSTM観察を行い、Agの原子細線の作製など微細加工を実現することが、今後の課題である。
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