研究代表者らのグループは、最近、水素終端されたSi表面では金属薄膜の成長過程が清浄表面の場合と大きく異なり、低温でもエピタキシ-が著しく促進されることを発見し、これを水素媒介エピタキシ-と呼んでいる。水素媒介エピタキシ-は、ヘテロエピタキシ-を促進させる効果のほか、原子レベルで急峻なヘテロ構造を形成しうる可能性をもつ。このように、水素媒介エピタキシ-を利用すれば、デルタドープ構造の急峻性を原子レベルで制御できる可能性がある。本研究では、水素媒介エピタキシ-を利用したシリコン中のデルタドープ構造の形成初期過程を基礎的に解明し、これに基づいて、水素媒介によってシリコン中に完全な急峻性をもつ単原子層のデルタドープ構造を形成することを目的とした。 本年度では、水素媒介エピタキシ-を利用したSi中のデルタドープ構造の形成初期過程を基礎的に解明するため、Si(001)基板上のGe単原子層を水素終端した後、Siバッファー層の分子線エピタキシ-により、デルタドープ構造を形成し、その形成初期過程を低速イオン散乱分光法と弾性反跳粒子検出法を用いてその場観察を行った。その結果、Si(100)基板上のGeデルタドープ層形成において、水素終端の処理を予め施すと、Siバッファー層成長におけるGeの表面偏析が抑制されることが分かった。Siキャップ層の成長中、水素は表面偏析しており、このことがGeとSiの位置交換を抑制していることが示唆された。
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