研究概要 |
我々は,幾何アルゴリズムの数値的安定化をめざして,数値計算結果より対象の位相構造の一貫性を優先させるアルゴリズム設計法-位相優先法-を開発してきた.この方法をメッシュ生成に適用すると,数値的には乱れを含むかもしれないが,少なくとも位相的にはつじつまの合ったメッシュを作ることができる.本研究では,この位相的無矛盾性を手がかりとして,数値的に乱れを含んでいても使える有限要素法を模索した. その結果,ラプラス演算子を含む偏微分方程式に対して,乱れたメッシュでも有効な離散化の方法を構成できた.ラプラス演算子は,直観的には「各点での自分自身の値をまわりの平均値で置き換える操作」という意味をもつ.通常の有限要素法では,まわりの平均は,メッシュ上で隣接する点の値の重み付き平均として離散化される.メッシュが乱れて自己交差していても,重みにマイナスの値を許すことにすれば,凸結合がアフイン結合に置き換わるだけでまわりの平均という意味は保存される.このことに注目し,離散化の際の重みの符号を調整することによって,メッシュに乱れがあっても「平均」という物理的意味を保つことができる.この考え方に基づいて,ラプラス方程式およびポアソン方程式に対する有限要素法を,乱れたメッシュに対してもそれなりに動作するものに改良できた.また,同様の考え方を利用して,2次元または3次元のボロノイ図を用いた補間法を,乱れを含んだボロノイ図に対しても有効なものに拡張できた.これによって,実際にボロノイ図を作るかわりに,ボロノイ図の位相構造を仮定するだけで補間できる新しい方法も構成できた.
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